世界の国々が一部の先進国やグローバル企業の定めたルールに縛られず、自分たちの力で、優れた製品による豊かな暮らしを享受できるように──。そんな地球規模の目標を掲げ、カンボジアなど発展途上の東南アジア諸国に向けて健康食品の流通・販売を展開する株式会社モノマルの西川巨樹代表取締役。「近所の知り合いも一国の大統領も同じ人間で上下関係などない」という透徹した哲学とビジネスの現状について語ってもらった。
健康食品など幅広い商品を国内外へ販売展開
城 モノマルさんは、健康食品にベビー用品、飲料から日用品に至るまで、幅広い商品の販売を手がける会社とうかがいました。国内での展開はもちろん、海外向けビジネスを行う商社としての側面も大きいそうですね。
西川 はい、世界の中でも今はベトナム・カンボジアなど東南アジアを視野に入れて取り組んでいます。
城 なぜ東南アジアに注目されたのですか?
西川 ビジネスの市場として有望とか距離的に近いとかそういった事情ではなく、これらの国々の暮らしや文化そのものに興味を持ったからなんです。きっかけは1本の映画でした。現在のカンボジアであるクメール共和国で、活動中に若くして亡くなった日本の報道カメラマンの実体験に基づく『地雷を踏んだらサヨウナラ』を見たんですよ。その後すぐに現地を自分の目で見たくなって、2002年に初めてカンボジアへ渡りました。
城 計算して始めたのではなく、見たい、知りたいという気持ちが先にあったと。実際に行かれてみて、どうでしたか?
西川 タイから陸路でカンボジアに入って進む道中はハプニングの連続でした。バンコクから国境の街アランヤプラテートまでが鉄道で7時間、さらに映画の舞台となったアンコールワットのふもとの村までは丸1日かかりました。その分、強烈な印象が残りましたね。やはり現地に行くと情報の確認では終わらないもので、その時に私が出会った現地のコーディネーターとは今でも交流があります。彼のおかげで発展途上国の人たちと身近に接することができ、日本人の知り合いを訪ねるような感覚で付き合えるようになりました。
健康食品中心の販売会社
輸出で東南ア発展に寄与
東南アジア諸国の先進国依存をなくすために
城 東南アジアに向けたビジネスで、どんなことを実現したいとお考えでしょう? お話を聞く限り、単に数字で計れる成果を求めているのではないのだろうとお察しします。
西川 その通りです。もともと学生のころから貿易をやってみたくて、いつか自分の手で中国ビジネスがしたいと思っていた時期もありまして。しかし、東南アジアの現状を見て、今向かうべきはこっちだと考えが変わりました。先ほども触れたように、この地域は途上国の集まりなので、先進国主導でルールが決められていく世界。その中で、自分たちの力で豊かな暮らしを実現しづらい状況に置かれています。
城 今は海外の資本や商品がどんどん流れ込んでいる状況ですものね。
西川 そう、いいもの、便利なものを使うには、どうしても海外製品に頼らざるを得ません。しかし、そうした東南アジアの国々に商品と一緒に“技術”も伝わればどうでしょうか? 先進国の進んだ技術に学ぶことで、今度は自分たちで同じ価値のあるものをつくり出せるようになるでしょう。私が目指したいのはまさにこれなんです。
城 なるほど、つまりビジネスを通じて東南アジアの自律的な発展に寄与したいと?
西川 はい。「その国の発展のため」だなんて、海外ビジネスの常套句に聞こえるかもしれません。でも私の場合は、欧米もアジアもアフリカも、全世界を平等にしたい。ご近所さんも一国の代表も、同じ価値観を共有できるようにしたいという欲求が強いんですよ。それには一部の国の技術優位をなくし、途上国も海外に依存しなくてすむ状態に持っていくことが不可欠なんです。
城 商品を売ってお金にするのはあくまで目的の一部であって、技術やノウハウを一緒に伝えることで、最終的に途上国の力になりたいという発想が根底にあることが伝わります。
西川 日本も今でこそ経済大国に名を連ねていますが、かつては欧米と不利な競争を強いられて苦しんだ時期がありました。そういう自分たちが親世代から伝え聞いた教訓を良い形で生かさないと、この先、東南アジア諸国も同じような困難に直面すると思うんです。
城 そうならないために、人間みんな一緒だという価値観を世界に広げる必要があるのですね。